
人権は誰もが平等に享受するべき権利であり、それが侵害されることは決して許されるものではありません。しかし、現実には人権侵害が見過ごされる場面が多く存在し、救済の道が容易ではないケースも少なくありません。私は、自身が直面した人権侵害に対して、日弁連および埼玉弁護士会の人権擁護委員会に申し立てを行いました。しかし、そこには想像を超える多くの壁がありました。本記事では、私の実体験をもとに、人権擁護の現実や制度の限界、そしてその意義について詳しく記録します。この記録が、同じような状況に直面している人々にとって一助となり、社会全体がこの問題に目を向けるきっかけとなれば幸いです。
保護の件につき弁護士会人権擁護委員会へ申し立て
- 弁護士会人権擁護委員会の概要
- 日弁連人権擁護委員会から埼玉弁護士会人権擁護委員会へ移送そして面談
- 埼玉弁護士会人権擁護委員会とのその後のやり取り
弁護士会人権擁護委員会の概要
東松山警察署刑事課に被害届を出したのは、2023年5月の末のことであったであろうか。事件、事故から3ヶ月を要している。
これと並行して対応したのは保護の件である。一番最初に弁護士相談の弁護士から「事故(事件)と保護は切り離して考える様に」と言われた。事件、事故は警察に、保護は日弁連人権擁護委員会に申し立てろと言われた。
人権救済活動(人権擁護委員会)
活動の概要
日弁連では、人権擁護委員会を設置し、「基本的人権を擁護し、社会正義を実現すること」を使命とする弁護士法第1条に基づき、個人や団体から人権救済が申立てられた事件について、調査・検討し、救済のための措置をとったり、意見書の作成などを行っています。人権救済申立てに関する手続(申立方法・手続の流れなど)
人権擁護委員会の任務は「基本的人権を擁護するため、人権侵犯について調査をし、人権を侵犯された者に対して救護その他適切な措置を採る」(会則75条)と定められており、その中心的な活動として、人権救済申立事件の処理を行っています。人権救済申立てとは(制度の概要)
日弁連は、弁護士法第1条(「弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする。」)に基づき、さまざまな人権問題についての調査・研究活動を行っています。その中でも、人権擁護委員会では、人権侵害の被害者や関係者の方々からの人権救済申立てを受け付け、申立事実および侵害事実を調査し、人権侵害又はそのおそれがあると認めるときは、人権侵害の除去、改善を目指し、人権侵犯者又はその監督機関等に対して、措置等を行っています(措置の詳細や過去の措置事例については、下記2をご覧ください)。
また、えん罪事件については再審請求の支援を行うことがあります。手続の流れ
日弁連に送付された人権救済申立書については、人権擁護委員会において、日弁連の人権擁護委員会で取り扱えるかどうかについて検討し、取り扱うことになった場合には、引き続き日弁連人権擁護委員会にて予備審査、本調査を行うことになります。また、各弁護士会にて取扱いを検討するのが適切であると判断した場合には、各弁護士会に意見を求めて、事件を移送することになります。なお、調査に当たっては、必要に応じて、関係者等への照会、諸法令の調査等を行い、当連合会内で十分な議論、検討を行った上で措置を行うかどうか決定をすることになりますので、結論を得るまで相当な期間を要することをご理解ください(過去には、結論まで数年を要した事案もあります。)。
申立て方法
人権救済の申立ては、次の事項を記載した日本語の文書によって行ってください。人権救済申立ての文書であることを明記の上、ご郵送ください(基本的に、メールやFAXでは受け付けておりません)。なお、申立てに際し、費用はかかりません。※提出いただいた書面は原則として返却しておりませんので、ご了承ください。
1.申立人の氏名、住所(または居所)
2.侵害者または相手方の氏名(団体や機関の場合は名称)
3.申立事件の概要
4.相手方への要望
提出先
日本弁護士連合会人権擁護委員会
〒100-0013 東京都千代田区霞が関1-1-3(出典:日本弁護士連合会)
私はこの申し立てを行った。
重要なのは、
「法的な強制力は持ちません」。
〔主な措置等〕
警告(意見を通告し、適切な対応を強く求める)
勧告(意見を伝え、適切な対応を求める)
要望(意見を伝え、適切な対応を要望する)
意見の表明
助言・協力
再審請求支援(出典:日本弁護士連合会)
と言う部分だ。
つまり当該関係者(東松山警察署や西入間警察署、鳩山町役場)に質問をして回答を受け、警告、勧告、要望をするだけということだ。これは警察官に対する不服申し立てを公安委員会にするのと同じだが、公安委員会と同様、質問を受けた当該関係者(公安委員会であれば警察官)は、質問を受けるだけで影響があるようで、再発防止になるとのことだ(ちなみに公安委員会に申し立てても、西入間警察署、鳩山町役場からの嫌がらせは行われ事件、事故に繋がったが)。
この間、法テラスの紹介で相談した弁護士からは、「人権擁護委員会はすごいですよ。私は埼玉弁護士会の人権擁護委員会しか経験していませんが」とのことであった。
日弁連人権擁護委員会から埼玉弁護士会人権擁護委員会へ移送そして面談
後述するが、とにかくこの日弁連人権擁護委員会、埼玉弁護士会人権擁護委員会は謎の組織(秘匿性が高いというのか)でリアクションがない。電話も来なければ、文書も来ない。
私はそれでも、その後の事件、事故の状況などに変化があれば、はじめに書ききれなかった内容も追記して送り続けた。不安だったのは上図のとおり、「予備審査不開始」、「調査不開始」、「不措置」の連絡が来ることであった。3ヶ月ほど経ってだろうか、手紙が届いた。上図「弁護士会に移送」にあたる「埼玉弁護士会の同意を得て、同会人権擁護委員会に移送」との記述、そして個人情報に関する同意書であった。
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心配していたが、とりあえず一つ目のハードルは超えたようだ。
その後もあいかわらず音沙汰がない、今度は埼玉弁護士会人権擁護委員会。事件、事故の刑事の方に動きがあれば、なしのつぶてではあるが、文書を送り続ける。小出しにして、それまでの経緯も少しずつ書いて送っていく。
9月になって文書が届いた。
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電話がいいのか、直接面談がいいのか、とにかくネットなどでも情報が非常に少ない。よりこちらが真剣であることを埼玉弁護士会人権擁護委員会にアピールするためには直接面談の方がいいと思った。そして浦和と川越、法テラスの対応も含めとにかくそれまで浦和と川越には大きな差があったため、私は浦和を選んだ。
私が勝手に想像していたのは大きな会議室で5人ほどの人権擁護委員会の方々に、私が事件、事故、保護の、クラウドに上げた資料をノートPCで説明すると言うものであったが、それは私の単なる誇大妄想であったようだ。
小さな建物の2階にある小さな会議室で、2名の人権擁護委員会の方と簡単な質疑応答があるだけ。というものであった。なにか軽くあしらわれたという感覚があり、私は年長者の方にもう少しちゃんと話を聞いてほしいと食い下がった記憶がある。ちなみにここでまた弁護士会人権擁護委員会の秘匿性の高さが垣間見える。名乗らないのだ。そんなことを知らない私は、普通社会人であれば初対面で名乗るのが当たり前だろうと不信感を募らせた。
どうも田舎の鳩山町からはるばる、しかも東上線沿線から高崎線沿線は川越線の利便性の悪さもあって池袋に出るよりよほど時間がかかる。私も当日はクルマで行ったくらい行きにくく遠いのである。勝手な私の誇大妄想で期待外れだったこともあり、非常に不快な思いで家路についた記憶がある。
途中何度もSAから電話した。楽天モバイルの品質の悪さもあり、つながらない。ますますストレスは溜まった。
翌日人権擁護委員会の委員長から電話があった。話をしてみると昨日の方だった。「委員長だったのか」と驚いた。私は立場もわきまえず、委員長に思いのたけをぶつけた。昨日とうって変わって、委員長は丁寧に話を聞いてくれ、「個人的には私は扱いたい」と言ってくれた。そして「扱わないのであれば、必ず文書でその旨伝える」。あれから1年半、事件から間もなく2年。連絡がないということはまだ埼玉弁護士会人権擁護委員会が”本調査”してくれているのだろうと思っている。
あれからも、刑事の方での動き、その後思い出したこと、民事への動きなど、動きがあれば都度埼玉弁護士会人権擁護委員会に文書で連絡をしている。
この時もそうであったが、正直なところ埼玉弁護士会人の事務の方々の対応はストレスの溜まるものであった。結局女性の方が真剣に私の話を聞いてくれ、人権擁護委員会委員会に話をつないでくれたことで委員長ときちんと話をすることができた。
この時とは違ったかもしれないが、特に人権擁護委員会の事務をしていると言っていた方は、まったくコミュニケーションにならず、「人権擁護委員会といういうからには、電話をしてきたりする人は困って電話してくるのだろうから、そういう対応はないだろう」と不満を持った。
人権擁護委員会の委員長にも話をしたが、当時埼玉弁護士会の会長をされていたのは尾崎豊さんのお兄さんで、挨拶でも「権力に屈せず正義をつらぬく」。そのようなことを書かれていたので、そのことからも私も過大な期待があったかもしれない。
埼玉弁護士会人権擁護委員会とのその後のやり取り
結局、事件が2023年2月、埼玉弁護士会人権擁護委員会に面談に行ったのが2023年9月、そして現在2025年1月だが、未だにその後の連絡はない。これは「本調査」中で「措置」か「不措置」かも決まっていないと認識している。
日弁連人権擁護委員会のHPの記述には「過去には、結論まで数年を要した事案もあります。」とあるから、まだまだ時間がかかるのかもしれない。
ネットで他の弁護士会の情報が載っており、人権擁護委員会の方の「被害者の長文にわたる切実な思いを受け」というような書き込みがあったこともあり、「なるべく多くの情報を伝えた方がいい」「別に遠慮することなく送っていいんだ」と私は感じ、現在まで23通の申し立て書を送っている。
ちなみに例の音声データもUSBメモリーで送った。
日弁連、各都道府県弁護士会人権擁護委員会について
- 人権擁護委員会の概要と目的
- 人権擁護委員会の活動内容と措置の種類
- 人権擁護委員会の手続の流れ
- 日弁連と各弁護士会の役割分担
人権擁護委員会の概要と目的
人権擁護委員会は、基本的人権を守り社会正義を実現することを目的として設立された組織である。この組織は、日弁連と各都道府県の弁護士会に設置され、弁護士法第1条に基づき活動している。国家機関や地方自治体、企業などによる人権侵害や不当な扱いに対し、救済と再発防止を目指すのが主な役割である。具体的には、被害者や関係者からの申立を受けて調査を実施し、必要に応じて関係者への措置を行う。措置には、警告、勧告、要望、意見の表明、助言、協力などが含まれ、法的な強制力はないものの、関係機関に対する改善の働きかけとして重要な意義を持つ。また、冤罪事件の再審請求支援や重大な人権問題の解決に向けた取り組みも行う。人権擁護委員会は、申立を通じて被害者の声を行政機関や司法機関に届けることで、個別案件の解決だけでなく、制度的な改善を図ることを目指している。さらに、社会全体の人権意識を高めることを使命とし、その実現のために各種の研修や啓発活動を積極的に実施している。
人権擁護委員会の活動内容と措置の種類
人権擁護委員会の活動内容は幅広く、申立の受付、調査、措置の実施が中心的な役割を担っている。申立は、日本弁護士連合会や各弁護士会に対して書面により行われ、申立人の情報、事件の詳細、要望が明記される。受理された申立は予備審査を経て、本調査へと進み、最終的に措置の決定が行われる。主な措置には警告、勧告、要望、意見の表明、助言や協力などがあり、これらには法的な強制力はないものの、問題解決や再発防止に向けた重要な働きかけとなる。また、冤罪事件の再審請求支援も活動の一環として行われ、無実の人々の名誉回復や正義の実現を目指している。重大な人権侵害事案では、関係機関への意見書提出や公的な声明の発表を行うこともあり、問題解決のために積極的なアプローチを取る。これらの活動を通じて、人権侵害の被害者救済のみならず、制度的な改善や人権意識の向上を目指している。さらに、日弁連と各弁護士会が連携することで、地域ごとの特性に応じた柔軟な対応を可能とし、全国的な人権問題にも適切に対応できる体制を構築している。
人権擁護委員会の手続の流れ
人権擁護委員会の手続は、申立書の提出を起点として、予備審査、本調査、措置の決定という段階的な流れで進行する。申立書には申立人の氏名や住所、事件の概要、侵害者や関係機関の情報、希望する措置内容などが詳細に記載される必要がある。提出された申立書は、まず予備審査を経て、その内容が受理されるか否かが判断される。予備審査の結果、不開始とされる場合もあるが、受理された場合には本調査に移行する。本調査では事実関係の詳細な確認が行われ、必要に応じて証拠収集や関係者への聞き取りが実施される。その後、本調査の結果を踏まえ、関係機関に対する警告、勧告、要望、意見の表明といった措置が行われる。これらの措置は法的な拘束力を持たないものの、問題の改善や再発防止を目的とした重要な働きかけとなる。調査や措置のプロセスには、案件の性質や複雑さに応じて時間がかかる場合があり、結論に至るまで数年を要することもある。しかし、この手続は被害者の声を受け止め、制度や慣行の改善を促す意義深いものである。人権擁護委員会は、これらの手続を通じて被害者の救済と社会的な人権意識の向上を目指している。
日弁連と各弁護士会の役割分担
日弁連と各弁護士会は、それぞれの役割に基づき人権問題への対応を行っている。日弁連人権擁護委員会は、全国的な規模で発生する問題や複雑で重大な人権侵害事案を中心に扱う。特に社会的影響が大きい事件では、日弁連が調査や措置の実施、制度的な改善提言の主導的役割を果たしている。一方で、各都道府県弁護士会の人権擁護委員会は地域に密着した活動を担い、申立の受付や地域の特性を考慮した調査、対応を行う。日弁連が受理した申立は、案件の内容や特性に応じて必要に応じ各弁護士会へ移送され、その後の調査や措置が進められる。このような役割分担と連携により、全国的な視点と地域密着型の対応が両立されている。また、日弁連は制度的な改善提言や法律改正の活動にも注力し、社会全体の人権意識を高める取り組みを継続的に実施している。この連携体制によって、個別案件に対して迅速で適切な対応が可能となるとともに、広範な人権問題に対しても柔軟性を持った対応が実現されている。
専門家の視点
- 人権擁護委員会の法的根拠と役割
- 人権擁護委員会の調査手続と法的限界
- 人権擁護委員会の措置とその影響力
人権擁護委員会の法的根拠と役割
人権擁護委員会は、弁護士法第1条を根拠に設置され、その目的は基本的人権の擁護と社会正義の実現にある。弁護士法第1条には、弁護士の使命として「基本的人権を擁護し、社会正義を実現すること」が明記されており、この使命を具体化するために日本弁護士連合会(以下、日弁連)および各弁護士会が人権擁護委員会を設置している。この委員会は、個人や団体から寄せられる人権侵害に関する申立を受け付け、調査や必要な措置を実施する役割を担っている。具体的には、申立人の訴えをもとに調査を開始し、関係機関に対して改善を求める勧告や要望を行い、侵害状況の是正を図る。ただし、これらの措置には法的強制力がないため、相手方に対して改善を促す形式で行動するに留まる。しかし、社会的影響力を持つこれらの活動は、人権意識の啓発や行政および企業の対応改善を促進する上で重要な役割を果たしている。こうした取り組みにより、個別の人権侵害案件の解決を目指すだけでなく、制度的な改革や社会全体の人権意識の向上にも寄与している。
人権擁護委員会の調査手続と法的限界
人権擁護委員会の調査手続は、申立書の受理を起点として予備審査、本調査へと進行する。弁護士法に基づき行われるこれらの調査は、事実確認を主たる目的とし、関係者への聞き取りや文書照会を通じて進められる。ただし、弁護士法には調査権限に関する具体的な規定が存在しないため、委員会が司法警察権を持つわけではなく、強制力を伴う捜査手段を行使することはできない。この制約から、調査の遂行には当事者間の合意や協力が不可欠となる。調査の結果としては、「予備審査不開始」や「調査不開始」といった結論が出ることもあり、この場合、申立人が異議を申し立てるための法的な手段は用意されていない。一方で、人権擁護委員会の活動は公益性を重視した自主的な取り組みとして位置づけられており、裁判所や行政機関の対応に影響を与える可能性がある。特に、調査結果や勧告を通じて事実上の社会的プレッシャーを関係機関に与えることができる点が、委員会活動の重要な特徴となっている。このように、強制力を伴わないものの、委員会の調査手続は被害者救済や制度改善への間接的な影響を及ぼす手段として機能している。
人権擁護委員会の措置とその影響力
人権擁護委員会が行う措置には、警告、勧告、要望、意見の表明、助言、協力などが含まれ、これらは弁護士法および日弁連規則に基づいて実施される。これらの措置には法的な拘束力はないが、社会的な影響力を発揮し、関係機関や当事者に対する改善の働きかけとして重要な役割を担っている。例えば、警告や勧告は、問題が改善されなかった場合に非公開で関係者に対して是正を促す手段として機能する。一方で、要望や意見の表明は、公式な文書として関係機関に提出されることで、問題の改善を求める重要なアプローチとなる。これらの措置は強制力のある命令ではなく、最終的な効果は関係機関の自主的な対応に依存するが、措置の内容が公表された場合には、社会的批判や世論を喚起し、間接的に問題解決を促進する力を持つ。特に、重大な人権侵害が社会に広く認知されることで、関係機関に対する圧力が高まり、対応を促す結果につながることが期待される。これらの措置は、人権擁護委員会の使命である基本的人権の擁護と社会正義の実現を具体化するための主要な手段として位置づけられており、その役割の重要性は非常に高いと言える。
専門家の視点、社会的問題として
- 人権擁護委員会の社会的影響力
- 人権擁護委員会が果たした具体的な成果
- 人権擁護委員会の今後の課題と期待
人権擁護委員会の社会的影響力
人権擁護委員会の社会的影響力は、人権侵害に対する意識向上と、関係機関や当事者への改善促進を主な柱としている。この委員会は弁護士法第1条に基づいて設置されており、その目的は基本的人権の擁護と社会正義の実現にある。法的拘束力を持たない活動ながらも、勧告や意見表明を通じて社会に圧力をかける役割を担っている点が特徴である。具体例として、労働環境の改善を求める意見表明が企業改革を促し、行政に対する警告が不適切な政策運用の見直しを促進した事例が挙げられる。これらの活動は法的強制力を伴わないが、社会的批判や世論の形成によって関係機関や当事者に対して間接的な影響を及ぼし、問題の改善を促している。また、人権擁護委員会が取り上げる事案は非常に多岐にわたり、差別やハラスメント、冤罪事件など、現代社会で特に問題視される事象にも対応している。こうした取り組みは、個別の被害者救済だけでなく、人権意識の啓発や尊重の文化形成にもつながり、社会全体における法的・倫理的基盤の強化に貢献していると言える。このように、委員会は直接的な法的権限を持たないながらも、その活動を通じて人権尊重の意識を社会全体に浸透させる重要な役割を果たしている。
人権擁護委員会が果たした具体的な成果
人権擁護委員会は、これまでに多くの分野で具体的な成果を上げてきた。その一例として、特定の企業における労働環境の問題に関する調査を行い、その報告書を公表したことで、社会全体に問題意識を喚起した事例が挙げられる。この報告書は、企業の内部改善のみならず、同業他社への警鐘としても機能し、広範な労働環境の改善を促すきっかけとなった。また、公共機関による差別的対応に対して、委員会が勧告を行い、その結果として問題が是正されたケースも少なくない。さらに、冤罪事件においては、再審請求のサポートを通じて被害者を救済し、司法の公正性確保に寄与してきた。これらの成果は、委員会が法的強制力を持たないにもかかわらず、社会的影響力を活用して問題解決を図ることができることを示している。特に勧告や報告書の公表は、直接的な改善を促すだけでなく、広く社会に人権意識を啓発する役割を果たしている。また、これらの活動を通じて、同種の問題が再発しないための仕組みづくりにも貢献している。例えば、差別的な対応の背景にある制度的な問題を特定し、それに対する具体的な改善策を提案することで、個別の事案を超えた制度改革を実現してきた。このように、委員会の活動は、単なる問題解決にとどまらず、社会全体の人権意識の向上を目指すものであり、その重要性はますます高まっている。
人権擁護委員会の今後の課題と期待
人権擁護委員会の今後の課題として、調査能力の強化および社会的認知度の向上が挙げられる。現行制度では、委員会の調査手法が法的拘束力を持たず、関係機関からの協力が得られない場合には調査が停滞するケースが存在する。このような状況を改善するためには、より強力な調査権限を付与するための法改正が必要であり、特に重要な人権侵害事案においては、迅速かつ正確な調査を可能とする制度整備が求められる。また、関係機関との協力関係の構築も重要であり、相互の信頼に基づいた情報提供や対応が期待される。一方で、委員会の活動は広く知られておらず、とりわけ地方において市民の利用が進んでいない状況が指摘される。この課題に対処するためには、広報活動の強化が必要であり、地域社会を対象とした教育プログラムや啓発イベントの開催が効果的であると考えられる。さらに、委員会が新たに直面する課題として、AIやデジタル技術の普及によるプライバシー侵害や差別問題への対応が挙げられる。これに加え、ジェンダー平等や移民問題といった現代的なテーマにも積極的に取り組む必要がある。これらの新しい問題に対応するためには、専門的な知識を有する人材の育成や外部の専門家との連携が不可欠である。これまでに築かれた信頼と実績を基盤とし、委員会が柔軟かつ迅速に社会の変化に対応することで、人権擁護の役割をより効果的に果たすことが期待されている。このように、既存の課題を克服しつつ、新たな社会問題への対応を目指すことが、委員会の今後の方向性として重要である。
まとめ
人権擁護委員会は、基本的人権の擁護と社会正義の実現を目指し、その活動を通じて多くの成果を挙げてきた。問題意識の啓発や関係機関への是正措置は、社会的影響力を発揮し、多くの分野での改善に寄与している。しかし、法的拘束力がないという特性や活動の認知度の低さといった課題も依然として存在する。これらの課題を解決するためには、調査権限の強化や関係機関との連携の深化が必要であり、さらに広報活動を充実させることで、一般市民や地域社会との接点を増やしていくことが重要である。また、AI技術やデジタル時代の新しい人権課題に対応するための柔軟な体制整備も欠かせない。今後、委員会がこれらの課題を克服し、引き続き人権擁護の使命を果たすことで、より公平で持続可能な社会の実現に貢献することが期待されている。